様々な自然・物理・社会現象をコンピュータを用いて計算し、予測するシミュレーションの分野では、扱う問題を精密にモデル化した場合、超大規模かつ高コストな計算が必要となる。従って、計算時間や必要メモリの少ない効率のよい計算アルゴリズムを開発する必要がある。また、ベクトル演算からクラスタ、そして単一のCPUの動作周波数の向上が頭打ちとなり余剰したトランジスタ数を活用したマルチコア・メニーコアCPU/GPUの環境を効果的に用いたシミュレーションアルゴリズムの研究開発を目指している。
キーワード
- マルチコアCPU、CELLプロセッサや、MPI、OpenMPを用いた並列計算手法に関する研究
- メニーコアCPU、GPUや、CUDA、OpenCLを用いた並列計算手法に関する研究
- ネットワーク並列分散処理に関する研究
クラスタ、MPIによる並列シミュレーション
並列分散型FDTD法とSPICEとのリンクによる回路／電磁界連成解析技術を、1999年からソニー株式会社、静岡大学、本研究室で共同開発。本研究室では主に、FDTD法の並列分散解析エンジン、レイアウトデータからのメッシュ生成、ポスト処理（可視化等）を担当しました。詳しくはこちらの記事に紹介されています。
並列分散型FDTD法とSPICEとのリンクによる回路／電磁界連成解析技術
その他にも、回路シミュレーションの高速過渡解析手法であるLIM（Latency Insertion Method）法の並列計算アルゴリズムをいち早く提案しています。配線系の解析では、特に周波数依存効果（表皮効果、誘電損失）を含む解析で、並列化が有効であることを実証しました。このアルゴリズムは、その後、静岡大学の研究グループによってAmazon EC2のクラウド環境を使ってさらに多くのCPUコアによる並列環境でテストされています。
並列LIM法のベンチマーク結果
新しいアーキテクチャに基づくプロセッサを用いた並列計算の評価
1つのPPEと8個のSPEを持つヘテロジニアスマルチコアプロセッサであるCell Broadband Engineを用いて、FDTD法の並列計算を実装し、その評価を行っています。Intel Core2Duo 2.33GHzに比較して、SPE1個で約1.9培、SPE6個で約3.2培の高速化が可能であるとのデータを得ています。
メニーコア、GPUを用いた並列計算の評価
計算コアを数百個有したGPUを用いて、様々な計算対象について評価を行っています。GPUは数百個のコアに対して同一の命令を実行する計算には適していますが、複雑な条件分岐を持つ処理は不得意であると言われています。従って、得意な計算が高速であるのは当たり前で、あえて不得意な計算についての調査と、その解決法を探りたいと考えています。
＊DT-CNNのGPGPUによる並列処理
DT-CNN（離散時間セルラニューラルネットワーク）による画像処理プログラムについて、Intel Core2Duo3.00GHzとNVidia GeForce GTX280を比較した結果、同期型並列計算において約40倍の高速化率を得ています。
＊Nクイーン問題のGPGPUによる並列処理
Nクイーン問題ではトラックバック法が一般的な解法ですが、大量の条件分岐によってGPUに不向きなアルゴリズムであることが知られています。Nクイーン問題に対してIntel Core2Duo3.00GHzとNVidia GeForce GTX280を比較した結果、N=16においてGPUによる計算はCPUに比較して10倍以上低速である結果を得ました。一方、様々な最適化を施すことによって、N=16においてCPUに比較してGPUは僅かに高速に解を求めることができています。しかし、CPUに対するアドバンテージはほとんど無いことから、現在のGPUのアーキテクチャに起因する特性を反映した結果が得られていることがわかりました。
＊VLSI配線網の容量抽出の並列計算
VLSI配線網の容量抽出では、差分法、有限要素法、境界要素法と並び、統計的抽出法が一般的に用いられています。統計的抽出で用いられているモンテカルロ法は並列計算への親和性が高いことから、これをGPUに実装した研究を行っています。これまでに、最新のCPU（Intel Corei7）に比較してGPU処理により30倍程度高速な抽出結果を得ています。
VLSI配線容量抽出のGPGPUによる高速化
